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Cut and Mix通信 11号

「コリア・在日・日本」連続セミナー2002〜2003



連続セミナー「在日」:Cut and Mix第10回(2003年3月7日)「闘う国際人権」●阿部浩己
日本の「常識」は世界の「非常識」人権の本当の国際性を問う著書『人権の国際化』(現代人文社)ほか



講演を聞いて

●洪貴義(コーディネーター)

 

 3月7日、連続講座Cut & Mixの第10回の講演は国際人権法研究者の阿部浩己さんの講演だった。途中に質疑をはさみながら、阿部さんは熱弁を振るって下さった。質疑応答、その後の交流会ともに活発に議論がおこなわれたのはその熱気が参加者に伝わったからだろう。

 

しかし私自身は「国際人権」という言葉にはあまり熱く反応するほうではなかった。それが重要であることは痛いほどわかっていても、そしてそれがマイノリティにとって権利獲得の数少ない武器であることはわかっていても、自分自身の毎日の生活の中で、人権という言葉に対する距離感は常に感じていた。社会の中で様々におこる草の根の排外主義、そして政府によっても、まともに人権を擁護しているとはとてもいえない政策が実行される状況の中で、人権を楯にものを言うことにたいして、その無力さ加減に疑問を持たざるをえなかったのである。しかし驚いたことは、講演の中で阿部さん自身がまさにそのようなことを語っていたということだ。国際人権が自分とどう関わるのか、毎日の生活の中で、それが見えなくなることがあったと。やはりそうだったのか、専門に研究している人でもそうなのか。阿部さんの正直な言葉は非常に印象深かった。私は共感し、この人物を信頼することができると確信した。

もちろん疑問だけを語っていたわけではない。当然ながらそれに対しての積極的な反論、つまり国際人権の重要な意義が講演の中心テーマだったのである。いわく「法は中立的でも客観的でもない。法の生命は論理ではなく経験である。だから法を創り、実施する場面での働きかけが重要なのである。たえざる闘いをしていくことこそが法の生命なのだ」と。そのために法識字能力を高め(法リテラシーということだろう)、行動することが重要なのだと。

私はこれを聞いてひとつの言葉を思い浮かべていた。それは「であることとすること」の論理を語った高名な政治学者(丸山真男)の言葉である。つまり社会を固定したものとは見なさずに、積極的に働きかけることで動かしていくこと、すなわち「すること」というダイナミックな働きかけによって社会を固定化させず、不断に働きかけることこそがデモクラシーというもので、つまり未完の永久革命なのであると。

距離感や疑問を大事にしながらも、やはりこの「未完の永久革命」を目指していくのが私たちのこころざしとならなければならないだろう。その意味で阿部さんの講演は非常に示唆的なものだった。今後考えていく必要のある宿題を手渡された思いだ。

 

 

【阿部浩己講師のレジュメ】

なぜ「闘う」のか

  ・法には「正統性」、「規範主義的誘導力」が備わっている

しかし、法は中立的でも客観的でもない!…法の生命は論理ではなく経験

だから、法を創り、実施する場面での働きかけが重要…絶えざる闘い

そのために、法識字能力を高め、行動する…法の市民化

歴史は常にマイノリティが動かし、創り出してきた…法の進化

 

国際人権法に携わってみて

国際人権法の可能性を実感できた時代

  同化と排除という支配的価値への挑戦

国際人権法の「学問化」…学問は客観的なもの、運動の蔑視

無視、拒絶の意味するもの…国際法の根本を考える契機

 

国際法が暴力的に封じ込めてきたもの

(1)国際法とは何か

簡単な歴史的素描

自由主義モデル…個人→国家   自律(独立)した平等な存在

実証主義の考え方…合意のみが法を創る

(2)国家とは誰か  

支配エリート間の談合

内政不干渉原則の機能…国内における差別構造の温存

市民、女性、子どもなどの排除

戦後処理の暴力性

国際人権法の構築

(1)第二次世界大戦の記憶

平和と人権のリンク

国連憲章、世界人権宣言、ジェノサイド条約、難民条約

停滞する人権活動

(2)人権の擁護を促す新たな動因、成果

脱植民地化

ベトナム戦争、市民運動

国際人権規約(社会権規約、自由権規約)、人種差別撤廃条約

女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約、移住労働者権利保護条約

国連人権委員会、人権小委員会での人権状況審議

国連人権高等弁務官ポストの設置

*権利別ではなく主体別の取り組み

(3)絶えざる脱構築過程

ジェンダーの視座の導入

自由権規範と社会権規範の統合

あらゆる条約の相互乗り入れ

 

国際人権保障システムの現姿

 (1)客観的法秩序の形成

私たちは権利の主体

(2)法を実現する重層的な仕組み

国内…裁判所(憲法982項)、国内人権機関

政府報告制度…定期報告、特別報告の審査

国際的な人権救済申立制度…個人通報

国連人権委員会の国別、テーマ別手続

   

国際人権法の課題

(1)垂直の統合力学の作用(米国法の国際法化)

軍事力行使規制原則の溶解…「警察行動」、「新たな正戦」

  市民的自由の抑圧、「付随的被害」という名のジェノサイドの容認

市場経済至上主義の浸透…牙をもった国際金融/貿易機関

  自決権、社会権(社会保障、医療、教育水準の低下)の制度的侵害

     ・研究者、NGOのエリート…政府のよきパートナーへ

(2)水平の力学の支援

国際刑事裁判所による武力行動の囲い込み

人権諸条約の射程を広げる…国外に進出した軍隊の行動を規制

                             多国籍企業を義務の名宛人にする

民衆法廷をはじめとする「直接行動」を正統化する

→NGOに統合されない社会運動の昂揚…意思の直接表明

 

私たちの社会をどうするのか−国際人権法からのアプローチ

(1)難民問題にみる社会観

治安維持、排除…政策決定エリート

多様性、共生の理念を対抗軸として具体的に打ち出す

(2)政策決定過程に国際人権の要素を入れる

政治過程への関与

*大学入学資格における人種差別撤廃条約・社会権規約・自由権規約違反

・法識字能力を高める

  *難民概念をめぐる誤解

(3)個人通報手続の受諾!…客観的な法秩序の体感

 

 

●発行●2003年3月14日
●編集●金 弘 明/洪 貴 義/佐藤信行