在日本韓国YMCA連続講座Cut'n'Mix>第1期第5回

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Cut and Mix通信 5号

「コリア・在日・日本」連続セミナー2002〜2003



連続セミナー「在日」:Cut and Mix第5回講座

鄭暎恵『ニューカマーのコリアン女性たち』



鄭暎恵『ニューカマーのコリアン女性たち』

カット&ミックス第5回は鄭暎恵(チョン ヨンヘ)さんを講師にお迎えして、「ニューカマーのコリアン女性たち」というテーマでおこなわれ、45人の参加者を得た。レジュメや統計資料をもとに2時間にわたっての講演と質疑応答があった。以下、講演内容を報告する。

 

まだ全体像をつかめていないが、これから理解を深めたい内容である。そのことによって何かが分かるというより、分からなくなるかもしれない。しかし、気にはなっていたことである。

このセミナーの1回目で「在日親子」というドキュメンタリーを上映した。その中に川崎に韓国から嫁いできた女性で、子どもたちも高校生になるという人が登場した。在日からニューカマーへの差別が歴然とあると述べていた。在日が多様化するなかで、いったい誰が在日なのかという問いが講師自身にある。在日の中にも多くの差違があり、これが在日であって、在日ではないという、在日の中でも排除の仕組みが働いているかもしれない。新宿の大久保あたりはコリアンタウンといわれているが、在日とは近いようで切り離されているように感じる。身近な存在でありながら、なぜか分け隔てている作用が働いているニューカマーのコリアン女性たちに焦点を当ててみたいと思っていた。

講師は『現代思想』の中で、フィリピン女性のリサ・ゴウさんのインタビューの企画をした。在日コリアンは日本の中でのエスニックマイノリティである。その自画像を探るとき他のエスニックマイノリティとの差違と共通性を見る必要があるのではないか。在日は対日本人ということだけでアイデンティティを探ることが多かった。しかし、それだけでは日本人のネガにしかなりかねない。だからこそ、日本社会の中で同じように同化作用を及ぼされてきた他のエスニックマイノリティと対話をすることが必要だと思われる。それがリサ・ゴウさんとの対談する動機にもなった。

そこでの対話の中で、リサ・ゴウさんから求められたことを考えてみると、私自身が在日ニューカマーのコリアン女性たちとのつながりを何とか持ちたいと思わざるを得なかった。互いに分断されたままでいるのは容易である。分断支配というのは日本の権力構造の中では頻繁に見受けられる。1999年の小渕国会以来、オールドカマーとニューカマーの分断がはかられた。以後、外国人を大量に受け入れようとすると、現在、外国人として存在している在日コリアンの既得権を考えざるを得ず、彼らを早く日本人にさせることで、これから入ってくる外国人を在日コリアンと分断し支配しなくてはいけない。従って、本来は分けることの難しいオールドカマーとニューカマーを分断させるという政治的な力が働いているのではないか。

一方、ニューカマーといわれる人たちも多様化しており、それは定住性の意思ひとつをとっても容易に分かる。例を挙げれば、講師の友人で10年以上住んでいるコリアンがいる。最初は留学生としてきており、今も頻繁に韓国とも往来があるが、やがて自分を在日だと自覚するようになった。彼女が在日として発言をしたときに、ある日本人から「旧植民地出身者」をさしおいて在日として発言するのはおかしいといわれたそうだ。そういう話を聞いて、居心地の悪い気持ちがした。在日が多様化していると言われる一方で、「在日とはこうであってほしい」という力が働いているのではないかと感じた。

 実際にニューカマーとオールドカマーを厳密に分けるのは困難である。それぞれの個人的状況を通り越して背後にある構造や権力作用を見なくてはいけない。

仮に在留資格で分けることを試みても、そもそも在日コリアンとはなんなのかというところまで考える必要がある。例えば帰化した人を在日ではないとは言えない。永住資格でも特別永住、一般永住にわけられ、特別永住者や一般永住者の配偶者など厳密に区別するのは難しい。

では歴史的背景を持って分けるのかという問いに対しては、朝鮮半島であれ日本であれどこで植民地時代を経験したのかということで分けるのか、それとも戦後の経験をもって在日と定義すればいいのか。戦後の歴史を経験せず、共有しない在日の若い世代はそういう意味での在日の特徴はあるのか。あるいはそういう歴史を経験しながらも意識をしない人はどうなのか。サイレント・マジョリティといわれる通名を使い、積極的にコリアンであることを表明しない人、また帰化した人たちが自分をどれだけ在日だという意識を持っているのか。経験をもっていても、意識をもっていなければどうなるのか。あるいは他者の目から在日と定義されても、本人が「いや、私は日本人と変わりはないのだ」いう意識をもつのならどうなるのか。

ダブルの国籍を持つ人たちはどこまで在日と呼べるのか。在日と結婚した日本人女性は在日に入るのか。極端なケースは、北への「帰国妻」は日本人なのか、在日朝鮮人なのか。毎年在日と結婚している日本人も数多くおり、同じ家族として生活様式を共有する。エスニシティというのは文化や生活様式をその概念の柱として考えているが、国際結婚によりそれらを共有している家族をいったいどのようにみなしていけばいいのか。一方、在日コリアンと結婚している中国人やフィリピン人、アメリカ人もいる。多くの人たちが在日コリアンと家族として暮らしている。

そういうなかで、在日コリアンの中でニューカマー、オールドカマーと分けうるのか疑問である。

実際に日本に住んでいる外国人女性たちとの出会いをいくつか紹介したい。

フィリピン女性Aさん

日本で在日コリアンの男性と国際お見合いをして、結婚するために日本に来た。その後離婚し、韓国籍を持つ子どもを育てていくために、前夫の姉と一緒にスナックで働いている。そのお姉さんもシングルマザーであるが、困難を共有しながら子育てをしている。Aさんは在日コリアンコミュニティーの中で生きているといえる。

ここでリサ・ゴウさんの80年代前半の発言を紹介したい。「日本のフェミニストは自分たちのことだけしか考えていない」「自分が『イエ』制度を脱しても、他のアジア女性がその役割を担う。自分が結婚したくなかった男性たちが他のアジア諸国の女性を嫁のかわりにしている、その女性たちのことを振り返ろうとはしない。」

しかし、この発言にあらわれる批判は、日本人女性だけでなく在日女性に対しても有効である。在日女性も90年代に入り、在日コリアンの中にある「男尊女卑」を目を向け発言してきた。在日女性も晩婚化し、結婚しない人が増え、離婚率も高まっている。在日の女性たちが結婚したくなくなった在日男性は、誰と結婚しているのか。そのことに無関心でいるわけにはいかない。

在日女性は離婚後一人で自立していくには困難で、女同士だけで助け合いがある(シスターフッド)。助け合って子育て、商売をする。私が直接目にしただけなのか、それとも在日女性の中では生きていく知恵としてあるのかということを気づかせてくれたのは、このフィリピン女性だった。

韓国人女性Bさん

高等教育まで韓国で受けた。韓国の男尊女卑の社会風土の中では誰とも結婚したいと思わなかったが、日本人男性と恋愛後、結婚した。家族の反対を押し切って日本にやってきたが、実際に生活してみると男性は不誠実で愛人ができた。思いあまってどちらかを選ぶように迫ったところ、どちらも選ぼうとしなかった。弁護士をいれて話し合ったが、駄目だった。他の男性との法律上の結婚もできない。前夫との間の子どもを育てながらシングルマザーとしてがんばった。生活のために歌舞伎町で水商売を始め、昼夜を働いて体をこわし、現在は消息不明。

そこで働いていた当時、彼女から聞いた言葉で強く印象に残っていることがある。それは、そこに住む韓国人女性のうち10人のうち9人は離婚しているということ。離婚している人が集まったのか、共通している状況なのかはわからない。いずれにしろ、そこでは家庭環境が複雑なところで育った子どもたちが多い。そういう子どもたちが疎外感を覚えずに育ってほしいと考えているためか、シングルマザー家庭の子どもたちが多く通う学校がある。

韓国人女性Cさん

日本人男性と「同じ宗教」を信じている縁で結婚して日本に来た。日本人男性と結婚することに不安はなく、結婚生活もうまくいっていると思う。子どもたちにも両方の文化を教えており、それぞれの文化を受け継ぐダブルとして生きていってほしいと思っている。ただ日本では自分のキャリアを生かした仕事をやることができないのが悩みである。

韓国人女性Dさん

韓国で高等教育を受け、働いていた。地方にいたせいか周囲の結婚を見て、自分自身の結婚に気が進まなかった。周りからのプレッシャーを感じていたとき、在日とお見合いする機会があった。いっそ、日本のほうが男尊女卑が弱いので自己実現ができる生活ができるのではないかとやってきて20年経った。しかし、来た当初は聞いていた話とは違うことがわかった。いわゆるバツイチの夫だった。子どもを産む女性が必要だったのか、チェサの労働をするためだけに来たのかと思うと悔しいが、子どもたちもかわいくて、ここで生きていくしかないかと思っている。子どもの一人が不登校になったとき、義母から母親の育て方が悪いからこうなったと責められてつらい。

韓国人女性Eさん

朝鮮籍の在日男性に見初められやってきた。家事、店、介護、子育てをし、いつ寝ているか分からない生活をしているスーパーウーマンである。それだけでなく、韓国にいる病床の母親の介護のために頻繁に韓国にも帰っている。全てを一人で抱え込んでいる女性。

ニューカマーのコリアン女性といっても、いろいろなケースがあってひとつに括れないものがある。

ニューカマーという言葉は何を指してきたのか。昨日来た人も20年前にやってきた人もニューカマーなのか。3年前に生まれた在日はオールドカマーなのか。オールドカマーとニューカマーは対概念のようにいわれるが、そうではない。オールドカマーは旧植民地を指すといわれることもあるが、在日一世の暮らしは何年経ってもニューカマーに近いのではないか。講師の祖母もニューカマー的な生活をしている。時間軸だけでははかれないものがある。そもそも在日でこの地で生まれたものは「カマー(comer=来た人)」なのだろうか。

ニューカマーのコリアン女性たちをあえて定義づけるなら、出生地、生育地、言語、ネットワーク、ジェンダー、ジェンダーによる限定された職業など、差違の重複によって階級分化された社会の中で最も周辺化され排除される人々ではないか。特に言語の問題は大きい。日本語は第一言語ではない人たちは、情報に接し、発信する機会が少ない。そのことでネットワークを作る機会にも出会いにくい。またジェンダーという要素がはいり、職業の選択が限られてしまう。あるいは子どもを産むことを期待されて日本にやってきた人もいる。生殖能力の有無が重要視されていて、もし子ども生まれなかったらこの人たちはどこに追いやられていくのか気がかりである。

これらは日本の社会の中での現象だけでなく、在日コミュニティーの中でも周辺化される人はいる。

 

以後、統計表から読みとれる現象を出して解説をしていく(統計表を参考にして下さい)

○ニューカマー、オールドカマーの別はわからないが、コリアンの非嫡出出生率が非常に高い。日本人女性から生まれる非嫡出子は1.6%ぐらい。一方、母親が韓国・朝鮮籍で生まれた子どもの1割が婚外子。

○離婚率が高い。2001年の夫婦とも韓国・朝鮮籍の婚姻は1919件で離婚件数は1067件。

●まとめ=金弘明

 

<当日の講師のレジュメから>

 

●「ニューカマー」とは誰か?

単に「新参者」を指すのではない。

また、「オールドカマー」の対概念でもない。なぜなら、「オールドカマー」と呼ばれる旧植民地出身者のうち、一世は何年ここ日本で暮らそうとその経験が限りなく「ニューカマー」に近い。そして、二世以降は紛れもなくこの地で生まれたのであり、いずれにしてももはや「カマー」ではない。

そこで、「ニューカマー」を定義するのは容易でない。あえて言うならば、“出生地、生育地、言語、情報、ネットワーク、ジェンダー、「人種」、国籍、職業/産業、生殖(能力)、セクシュアリティ、障害等、さまざまな差異の重複により、階級分化された社会の中で、もっとも周縁化され排除される人々”と定義できるだろうか。

 

●非嫡出出生率の上昇

次の数字は、人口動態統計から作成した「日本における外国人の人口動態」(2001年)である。

 

国籍

総数

嫡出出生数

非嫡出出生数

非嫡出出生率(%)

総数

11,837

5,620

6,217

9,144

2,693

22.75

韓国・朝鮮

2,751

1,290

1,461

2,458

293

10.65

中国

2,494

1,150

1,344

2,160

334

13.39

フィリピン

924

458

466

235

689

74.57

タイ

245

120

125

38

207

84.49

米国

151

70

81

142

9

5.96

英国

65

22

43

63

2

3.07

ブラジル

2,926

1,400

1,526

2,126

800

27.34

ペルー

714

354

360

517

197

27.59

その他の外国

1,567

756

811

1,405

162

10.34

次の表は、同じく人口動態統計から非嫡出出生数(非嫡出出生率)の年次推移を算出したものである。

母の国籍

1998年

1999年

2000年

2001年

韓国・朝鮮

257(7.5%)

272(8.7%)

270(9.0%)

293(10.65%)

中国

165(6.5%)

240(9.7%)

258(9.9%)

334(13.39%)

フィリピン

656(78%)

659(76%)

657(74.5%)

689(74.57%)

タイ

260(87.8%)

282(83.7%)

207(84.5%)

207(84.49%)

米国

10(5.1%)

17(7.9%)

10(6.0%)

9(5.96%)

英国

3(4.2%)

8(12.1%)

6(6.9%)

2(3.07%)

ブラジル

691(23.3%)

650(20.9%)

706(23.1%)

800(27.34%)

ペルー

198(29%)

184(24.7%)

190(25.5%)

197(27.59%)

その他の外国

150(10.2%)

130(9.7%)

131(8.7%)

162(10.34%)

ここでの非嫡出出生数は、外国籍の母から出生した非嫡出子(子どもの両親が婚姻関係にないので父親の国籍は不明)で日本国籍をもたない子どもの数であるが、子どもの国籍は必ずしも母と同じであるとは限らない。無国籍となる場合もある。また、父親が日本人で胎児認知している場合、母親が外国籍であっても子どもは日本国籍保有者となる。よって、ここに数字であげられている子どもたちは、両親が婚姻関係にない上、胎児認知も受けていない者が多数を占めると考えられる。胎児認知を受けていない理由はさまざまであろうが、こうした国際婚外子を産んだ母で非婚シングル・マザーとなる者は少なくないと推測される。

日本は戸籍制度による婚外子差別が厳しく、出生数に対する非嫡出出生数の割合が約1%(1999年で1.6%)と極端に低い。また、統計数字には表れないかたちで、婚外子を女性一人で育てられないことから、多くが海外に養子に出されてきた事実(『海を渡る赤ちゃん』朝日新聞社、1995年)からもわかるように、日本人同士であっても、ジェンダー差別によって妊娠後に男性が逃げてしまうケースが後を絶たない。ましてや、外国籍女性に対する差別が加わると、この傾向はひどくなるのではないだろうか。そして、こうした国際婚外子は年々増える傾向にある。

日本国籍のシングル・マザーでも、平均年収250万円弱の貧困と、家事と仕事を「一人で」両立するというオーバーワークの中で生きている。それが外国籍女性、しかも異国で一人子育てをする「ニューカマー女性」となるとどうだろうか。

また、「在日」の婚姻の9割近くが日本国籍者との婚姻となった現状から、日本国籍者との間に生まれた子どもの出生数と比較すると、非嫡出子出生率は以下のようになる。

2001年

出生数

出生総数に対する割合

総数

9,455

100%

妻韓国朝鮮籍・夫日本籍

3,204

33.89%

夫韓国朝鮮籍・妻日本籍

3,437

36.35%

夫婦とも韓国朝鮮籍

2,390

27.28%

妻韓国朝鮮籍・夫その他籍

68

0.72%

夫韓国朝鮮籍・妻その他籍

63

0.67%

非嫡出子

293

3.1%

ただし、産婦が韓国朝鮮籍の場合だけを取り出すと、非嫡出子出生率は、4.92%となる。

 

●異常に高い離婚率

次の表は、「在日」に関する婚姻数と離婚数をまとめたものである。

2001年

婚姻数

離婚数

離婚数/婚姻数

総数(括弧内は日本国籍者とのもの)

9,830(8,665)

 

8,817(3,836)

89.69%

夫婦とも韓国朝鮮籍

  1,019

  1,067

95.50%

一方が韓国朝鮮籍

8,811(8,665)

3,875(3,836)

43.98%

夫が韓国朝鮮籍

2,555(2,477)

1,207(1,184)

47.24%

妻が韓国朝鮮籍

6,256(6,188)

2,668(2,652)

42.65%

この離婚率の高さは、「ニューカマーたち」が日本での在留資格を得るための偽装結婚が多いからだと言う人もいる。そういうケースもあるかもしれないが、婚姻数と出生数を比べると、やはり、偽装結婚はそれほど多くないと思われる。

では、なぜ、離婚に至り、離婚後はどのように暮らしているのだろうか。そして、「ニューカマーのコリアン女性たち」はいったいどのような婚姻または離婚をしているのだろうか。日本・韓国・「在日」において国際結婚(または僑胞結婚)が多くなる理由は何だろうか。女性たちは何を求めて生きているのだろうか。


●発行●2002年1月24日
●編集●金 弘 明/洪 貴 義/佐藤信行